Soliloquy box

松葉が纏まりのない文章を溢すだけの箱

Short Sentence6⃣

 十字路で迷子になった夜、手を繋いで君と夢の中に紛れ込む。小さな小さな声でハミングして、冷めた空気を暖めた。酩酊したみたいにふらりふらりと白線を踏み外して、僕らの人生をなぞっていく。君が居ればそれでいいよって、この手の温もりだけは嘘じゃなかったのに。仕立て上げられた現実は僕らにだけ残酷だった。君の最寄り駅、寂れたインターネットカフェの蛍光灯と明かした夜のこと、今でも思い出すよ。ブルーライトとアルコールが寄り添ってくれたあの夜は、夢か現か、もうわからなくなってしまった。瞑った瞼を開く。あの夜も、君の掌も、もう何処にも無い。手放したのは僕だったのに。君と生きたあの夢のような時間に、僕だけが今も、酔い続けている。

Short Sentence5⃣

 何度目かの"自分らしさ"を見失った夜。投げた肢体はシーツの上にちらばって、遠く伸びた指先は霞み、ぼやけていた。雨は止んでしまって、鬱気は更ける闇夜の中へ溶けていく。鈍感になる事だけが得意だった。けれどそれは、鋭敏なことときっと同義で。知っているから知らない振り。"自分らしさ"なんて、最初から無かったんだよね。わかってる、わかってるわかってる。わかってるよ。君が望むわたしで居られればいいよ。そのうちにほら、もうぜんぶ、わからないからさ。刺さる棘は抜いて、血溜まりは影にして、微笑ってあげるよ、きみの為に。

Short Sentence4⃣

 踵を上げて背伸びをして、それでも空を飛べやしないから、わたし、鳥が好き。先行く腕を引くだけで、君はいつも立ち止まって振り返って、微笑んでくれた。それからどちらかの部屋に転がり込むのがお決まりだった。最初にキスをせがむのはいつだって君で。そんな倖せが続くことを夢想していたの、ずっと。恋人ごっこはもう辞めよう、なんてさ、始めたのはわたしなんだから、勝手に決めないでほしかった。それなら、初めから君なんて居なかったことにしてほしいよ。君との想い出はもうわたしの中に住み着いてしまって、これが恋なのだと今も囁き続けている。ねえ、君の内側にいるわたしは何になるの? 終わったものが恋でなくなってしまうなら、最初からそんなもの必要ないことにしておきたかった。わたしね、空を飛べないの。君だって同じでしょう。それなら、どうしてこの気持ちは同じに成れないの。同じところは幾つだって見つけられる筈なのに、ひとつの違うところで全部が有耶無耶になってしまった。酩酊した幸福感で不幸が浮き彫りになる。声が震えても、もう温もりはやって来ない。寄り添ってはくれない。人生がゲームだったらよかった。それならわたし、絶対にセーブポイントから動かないのに。上書き保存されてしまった関係は、戻ることも、デリートすることすらも叶わない。君が居なくなって戻って来たひとりぼっちの生活が、君と過ごした日々を消していく。消えていく。わたし、来世は鳥になろうと思う。同じところが少なければきっと、こんな結末は来ないから。だから、覚えておいて。わたし、鳥が好き。

 

Short Sentence3⃣

 脳が揺れる。実際は揺れてなんかいないのに揺れている。視界がぶれて滲んでいく。鮮明になんて見えたこと無いのに、世界から切り離されたような気がして、安堵、それから焦燥。僕も君も"ほんとうのこと"なんて何も知らないんだ、だってそんなもの何処にも無いのだから。ボディーソープを塗りたくれば乾燥しないわけじゃないし、洗い落とせば総てが綺麗になるわけじゃない。ささくれ立った心はずっと枯渇している。何を求めているのかもわからないままで、代替手段だけが積み重なっていく。お腹を満たしても心は充たされないよ。そう言われても、一度堕落してしまえば、這い上がるときに掛かる負荷は絶大だ。にかにかと痛むお腹を撫でて言い聞かせてみせてよ。そうやって、他力本願。やっぱり視界は揺れたまま。罪悪感と憎悪が幸福感と混ざり合って、それが人間になるんだよ。だから君も僕もそれからみんなも、とてもとても人間だよ。良かったね。

Short Sentence2⃣

 毎夜、目が覚める。閉め切ったカーテンの向こうで、世界はまだ冷め切った闇に包まれている。ぼやけた意識の中、感情はその闇へ呑まれたかのように暗く重く横たわっていて、憂いだか何だかが鬱蒼と茂っている。暗澹が腰を据えて、虎視眈々、心の隙を狙っている。防具はもう尽きてしまった、いっそサイボーグになれたら、否、もうこれ以上の非難は勘弁してほしかった。避難したこの部屋ですら侵されて、青鈍の海で溺れている。それならもうお葬式でもしようか。今日の僕を殺めて、明日の僕が喪主を務める。参列者は、今同じように海の底へ落ちた君たちでどうだろう。朝日が昇る頃、皆で地獄へ行こうか。それとも、此処に比べれば何処だって天国なのだろうか。闇夜に酔い痴れて酩酊した脳は、答えを弾き出せぬままに微睡みを連れて来る。そうだ、もうひと眠りして総てを明日の僕に託してしまおう。死んでしまえばどうせ、何もわからないのだから。

Short Sentence.

 もう届かないことを歓びながら、届いてくれれば、なんて思っている、夜。君は今、何をしているのだろう、星に問うたって教えてはくれないけれど、君も見ている気がして寒いベランダでひとり、ずっと。ここから見た星々は欠片のようにか細いのに、光を越えて行けば煌々と輝いているだなんて、まるでマボロシのようで、僕と君のようだ。

 桜吹雪も、夏の海も、紅葉の川も、冬の夜も、全部全部知っている筈なのに、何もかも失ってしまった。これでもか、と思うくらい愛おしくて、どうしようもなく憎たらしい。それが僕にとっての君で、君にとっての僕だろう。人間が結んだものは、人間が簡単に切ってしまう。あの星座だってきっと同じだよ。君の好きなそれの名前だけ、綺麗サッパリ忘れてしまった。その形すら桜のように散ってしまえば、紅葉のように流れてしまえば、もうわからなくなってしまうね。それでも海のように煌めいて、夜にこうして輝くのだから、想い出なんて本当にくそくらえだ。

にんげん

 誰かが「人間とは友達じゃありません」と言ったから一人の人間が傷ついてしまった。「どうやらあの子は人間じゃなかったみたいね、可哀想に」と誰かが自分のお優しさとやらに酔って一人の人間の心が砕けてしまった。人間はかんたんに人間を虐める。そんなこと動物でもするんだからかんたんに解る事なのにね。「だから人間が人間を虐めるのは仕方のないことだよね」ってそうじゃないんだよ馬鹿なのかね君は。人間が何のために知能を持ったのか考え給え。他の種族を見て同じことを繰り返さないように知能を持ったんじゃないのかね。虐めをする動物たちを見てどうして同じことを繰り返すんだ。だから人間は馬鹿なんだ。「先生、此処の人間が人間を虐めています」「わかりました、守衛を呼んで退出させましょう」ああああこうして糾弾することだけが上手になって全くもう。ただ糾弾したって虐めは無くならないんだよ。力のある人間が、声高に叫ばなければならない……え、あれ?私かい?私が虐めたことになっているのかい?そうか、君は声高に叫べる力ある人間だったのか、なら良かったよ。こうして説教を垂れている人間は必ずしも正しいことを言っているとは限らないのでね、時にはそういう人間にも言及してやらねばならない。え?まだ言うのかって?ああ、なあに、これは自分を顧みているのさ、人間は時に自分を戒めて反省せねばならぬときが有るのでね。戒めが出来るのも人間固有の能力だろう。反省点を克服し自らの力に変えてこそ人間は強くなるのだよ。ああそうだった、退出だね、仕方ないなあ。「お前が連れてきた人間、今日も全く変わっていなかったな」「どうやら記憶を無くしてしまうみたいなんだ」「酒を与えすぎなんじゃないか?一合は超えていると聞いたぞ」「どうも酔うと目が据わって、かと思えば悟りを開き、そしてそれを語り始めるのでとても面白いんだ」「なに、それなら今度の観察は深夜に執り行うとするか」「それは愉しそうだ」「では、明後日の深夜一時に落ち合おう」「そうしよう」「ああ、それにしても本当に、」「「「人間は馬鹿で愉快だなあ」」」

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